前回の投稿で、私が受けもつジュニアクラスの子どもたちの意志を感じることができてとても嬉しい、目がすごく輝いてきた、意志は今の時代を生き抜くために不可欠になってきた、という話をしました。
今回はその続きです。
私が子どもたちの意志を引き出すために、どのようなことを考えてどんなレッスンをしているか、具体例を交えて話したいと思います。
まず、前提の意識合わせから。
今回例にあげるジュニアクラスは、選手育成クラスではありません。放課後の延長でテニスをする小5〜中3までを対象としたクラスです。
そのスクールではジュニア中級と呼ばれています。その下にはジュニア初中級、上にはジュニア上級があり、それとは別に選手育成クラスがあるイメージです。
また、私は、人間の成長過程はざっくり次の2つのステップに分けることができると考えています。
- 知る・できる(習得)
- 考え工夫する(創造)
テニスで言うなら、例えばドロップショットという技術を知り、できるようになったら、それを試合で使いこなせるようになるのがひとつのゴールです。
試合で使いこなせるようになるためには、自分でいろいろ試して適切なタイミングなどを理解するステップが不可欠です。それが2の「考え工夫する(創造)」です。
ところが、多くのテニススクールは1の「知る・できる(習得)」だけをしています。
極端な言い方をすると、今コーチが教えていることしかやらせてもらえないのがスクールです。
また、このステップ1と2は繰り返されるものです。例えば、レベル1からレベル10まであるとしたら、レベル1の中にステップ1と2があり、レベル2の中にもステップ1と2があるといった具合です。
ゆっくりしたボールしか打ち合わないレベルでは、ネットプレーを習得し、試合でも使いこなせるようになった人も、もっと速いボールを打ち合うレベルに混ざったら、またステップ1の習得に戻るということです。
さて、ここからが本題です。
結論から言うと、意志を引き出しやすいのはこのステップ2「考え工夫する(創造)」に取り組んでいる時です。
ステップ1「知る・できる(習得)」でも上手くコーチングできれば意志を引き出すことはできますが、そっちの方がコーチングスキルとしては難しいというのが私の見立てです。
ステップ2の方が簡単に子どもたちの意志を引き出すことができます。
前述の通り、私の所属するスクールもほとんどのコーチがステップ1の「知る・できる(習得)」にフォーカスしたレッスンを子どもたちに提供しています。
それはほとんどの場合、型にはめる指導です。「ハイ!ラケット引いて!ハイ!スイング!右手の手の甲は左耳〜」というように子どもたちを言葉で操るようなケースが少なくありません。
こうなると、子どもたちは言われた通りにやれないと辛い思いをするため、一生懸命言われたことをやるようになります。
これを繰り返していると自分で考えることをしなくなる、いわゆる「思考停止」状態になります。
こうなると意志はどんどん薄れていくということは誰にでもわかると思います。
ジュニア初中級までこのような指導を受けてきた子どもたちは進級して私のクラスに入る頃にはボールは打てるけどすっかり意志の弱いプレーヤーになっています。
なので私は、ステップ2の「考え工夫する(創造)」にフォーカスしたレッスンをたくさん提供するようにしています。
ここからは「考え工夫する(創造)」について具体例をあげて説明します。
私のレッスンはすべて「勝負に勝つ」をゴールに定め、まず初めにそれを説明します。
「最後はシングルス(またはダブルス)の試合をするから、そこでどうやったら勝てるか考えながら自分なりにいろいろ試していこう。練習はラリー中心、途中にもたくさん勝負を入れるから勝ちにこだわっていこう」
という具合です。その日のテーマも設定しますが、それはサブテーマとして扱い、メインのテーマは毎回「勝負に勝つ」です。
メニューの流れは例えば、ショートラリーをして半面ストレートでラリーをしたらすぐにそのまま半面ストレートの3ポイント先取の勝負をしたりします。
もちろん、勝負はルールの範囲であれば何でもありです。子どもたちが創意工夫を存分に楽しめる環境を提供します。
また、彼らがいろいろ試してミスをしても、それにトライしたことに対する感心を示します。
褒めるというより、驚くリアクションの方が効果的です。
「おーなるほど!そこでドロップショットか。ナイスアイデア!」
「おぉ!今のネットプレー積極的でいいね〜」
さらに、この時、あえて「もっとこうしてごらん。そうすれば決められるよ」といったアドバイスをしません。
なぜなら、彼らはそれを自分で考えられるからです。
ボレーで得点したいという意志が芽生え、ネットプレーを誰に言われるでもなく自分で挑戦し、「最後のあの比較的簡単なボレーさえ上手くできていればポイントが取れていた」という手応えがあるので、彼らはもう一度挑戦します。
それはもう夢中モードです。
そしてその中で、自分の感覚でプレーを改善していき、成功体験まで自分でたどり着くことができます。
子どもとはそういう生き物です。
ここがコーチにとって一番難しいところかもしれません。我慢が必要です。子どもの性質を理解して、黙って見守ります。
例えば、そうやって4回失敗し、5回目で成功した時の彼らの表情はもう最高です。
もちろん、ここぞとばかりにコーチも声をかけます。
「おぉぉーー!タイキ!すげぇ!できたな!ナイスボレー!」
4回失敗して、成功したのがたとえ1回だけでも、レッスン後の忘れた頃に「今日はボレーでポイントが取れたからよかった」と報告してくれる子もいます。
これが、私がやっている、子どもたちの意志を引き出す方法です。
これは、テニスに限らずいろんなところで応用できます。私は育児に応用していて意志の強い息子に日々感心させられています。
是非、皆さんも応用してみてください。