死ぬとき笑う

だから、自分に正直に、自分のために。

一言でフェデラーのようになった事例

当たり前だが、万人に当てはまる話ではないし、フェデラーというのは比喩だ。「フェデラーに失礼」などといった批判はなしでお願いしたい。

 

昨日、大学体育会庭球部のコーチをしていて、ある女子選手のプレーがひとつのアドバイスで大きく改善し、とても驚いたので言語化しておく。

 

彼女はまもなくはじまる学生リーグにシングルスの3番手で出場する選手だ。

 

彼女はこれまで他校との対抗戦でも勝率が高い。つまり、同じレベルの学校のシングルス3番手だけを集めた場合、彼女は上位にいることになる。

 

それでも、勝利を確実なものにするため、今の自分に満足することなく上を目指している。

 

全員レギュラーの人数の少ない部のため、わたしはひとりひとりを順番に見るという取り組みをしている。

 

コーチに見てもらえる20〜30分間の目的や練習内容は学生自身が決め、コーチであるわたしはそれに従って対応する中で、必要最低限のアドバイスをしていく。

 

一言でいえば、選手主体のコーチングをしている。

 

その彼女は、練習前にLINEでこう連絡してくれていたのでその対応をした。

 

今回のコーチ練では、シングルスで攻め急がずに打ち合うこと、をテーマに、再びコーチには試合形式で対戦相手をしていただきたいです。

 

当日は、こちらがどのようなタイプのプレーをしてほしいかだけ確認し、特にわたしから何かをいうことなくすぐにマッチをする。

 

コーチにやってもらうタイプはわかりやすく言うと主に次の3つから選んでもらっている。

 

  • 自分と同じくらいの球威のボールを打つ
  • 自分より球威のないボールを打つ
  • 自分より球威のあるボールを打つ

 

ただし、いずれもミスの少ないタイプだ。

 

だから、弱い相手ではない。そのため、学生たちは基本、負けることになる。それでも学生たちは、勝ち負けにこだり、結果には惑わされず、内容から学んでいく。

 

そんな環境を提供している。

 

この日も、彼女は負けていた。わたしは黙って相手を続ける。すると途中で彼女から質問が出てきた。

 

これがとても重要なことと考えている。コーチが先回りして答えを与えるのではなく、学生たちが主体的に自分から答えを掴みにいく瞬間だ。

 

彼女の質問はこんな内容だった。

 

「同じレベルか格上と感じる相手とやると、試合中に視野が狭くなっていくことがあります。そうなっているときはあまりよくありません。今もそうなっていました。こんなときコーチはどうしていますか?」

 

とても良い質問だと思った。コーチはどうしているのか聞いて、あくまでも参考とし、自分なりの答えを見出そうとしていることがわかる。

 

わたしは答えた。

 

「わかる。わたしもよくなる。特に相手を格上と感じている時は、実際にボールの球威がやり慣れているイメージより強かったり、先読みされていたりするよね。だから、自分がこれまでやってきたレベルより、もっと速く動き、もっと早く気づく必要があるよね。つまり、限界を越えないといけない。だから超集中する。そんな時は視野が狭くなりやすい。というか、視野を狭くしないと集中できない。だから、わたしはその視野の狭さはある意味必要なものと考えている。超集中して視野を狭くなる自分を受け入れ、その視野を少しずつ広げていけるように努める。わたしはそうしている」

 

こう話した。ただ、記事タイトルにある「一言」はこれではない。続けてこう伝えた。

 

「ただ、いろんなタイプの人がいる。あえて狭くなった視野を捨てて、いきなり視野を広くすることを努めた方が上手くいくタイプもいる。だから、両方試してみるといいと思う。さっそくやってみよう」

 

彼女は後者のタイプだったのだ。

 

見違えるほどにプレーが変わった。わかりやすく例えると、突然フェデラーのような余裕のある雰囲気を身にまといはじめたのだ。

 

現に、私からあっさりとゲームを勝ち取った。

 

しかも、彼女はサーブに悩んでいたのだが、不思議とそれも同時にクリアされた。

 

どうして急にそんなに変わったのか。何をどうしたのか。それを他の誰かにわかるように説明してくれと彼女にお願いしても、それはきっと難しいだろう。

 

感覚的な話だからだ。

 

一言でいえば「視野を広くするようにした」となる。彼女の言葉を借りるなら「俯瞰してコート全体を見るようにした」となる。しかし、これはどういうことなのだろうか。きっとこれを詳しく言語化しようとすればするほど、彼女の感覚は正確には伝わらないだろう。

 

さて、最後に彼女にこんな話もしてみた。

 

「たぶんだけど、ハッタリは必要だと思う。格上と認めている相手に対しては焦りなどがまず出る。だからこそ視野が狭くなる。その焦りを打ち消せたときに視野を広くできる。つまり、『格上だろうとわたしはやれるよ』というハッタリ、自分を信じる力が必要なのだと思う」

 

しかし、彼女にそのアドバイスは不要だったようだ。

 

その日、1-6で負けていたOGの先輩とその後タイブレークをやらせてみたところ、あっさりとフェデラーモードでプレーして見せてくれたのだ。

 

これは頼もしい。これを機に、大きな自信を獲得することを期待したい。

 

とここまで書いたところで、今めちゃくちゃタイムリーに本人からLINEがきたではないか!

 

宮田コーチお休みのところ失礼致します。
本日、[某]大学と練習試合を行い、主将にお願いして、強い相手にあたるようにS2で出させていただきました。昨日のコーチ練を思い出して、試合前、自分より相手が上かもしれないという認識があっても、試合中は視野が狭くならず俯瞰してコート全体を見れていた気がしました!結果も確実についてきたので、やはり効果があったのだと思います!
リーグまでこの感覚を忘れずに、頑張ります、ご報告でした。

 

なんてコーチ冥利に尽きる話なんだ。幸せすぎる。

 

いやしかし、2つ前の記事にも書いたが、若者たちはほんと輝いてる。我々おじさんも彼女たちに習って日々前進あるのみだ。