私は本業のかたわら、某大学体育会庭球部のコーチをしている。
部員たちにとって1年の集大成となる学生リーグ本番は9月。その3ヶ月前のこの時期に女子部幹部から2年生のひとりが部を去ることになったと聞き、私も本人から直接話を聞くことにした。
今日は、そこで彼女に伝えたことを書く。
その大学は比較的小さく、そもそも学生の数が少ないため毎年部員集めに苦労している。
今年の女子部に限っては総勢5名。これはすべての部員がレギュラーであることを意味する。ひとりでも欠けたら団体戦に穴が空く、つまり一敗が確定した状態で戦わなくてはいけなくなる状況だ。
それにもかかわらず、このタイミングで彼女が退部を決断したということは、何かしらの問題が以前から潜んでいたことは明らかだった。
私が彼女と話す目的は、彼女を引きとめることよりも、それが何かを知りたかったからだ。というより、その問題が何かはおおよその察しがついていて、それが確かなら、引き止めるのは難しいし、何より助言をしたかった。
結論からいうと、問題は部ではなく、退部する彼女の中にあった。
「社会人になる直前の大事なこの時期に、テニス選手やテニス業界に就職するわけでもないのに体育会でテニスに多くの時間を割いていていいのかな?ダメな気がしてきた。けど、仲間の手前、辞められない」
彼女は1年近く前からこうなっていたと私に話してくれた。
そして、このような学生は毎年必ずといっていいほど出てくる。だからそうではないかと想像していたのだ。
これまで何人もこうなる学生を実際に見てきて、彼らがこうなってしまう根本原因は以下であることは間違いなかった。
「もともとそこまでやりたいと思っていない」
周りにつられてなんとなくやっているのだ。そして彼らは往々にして、何に対しても同じで、探求するほどやりたいと思っていることが、そもそもない。
そのため、何をやってもそれをやっていることに疑問が生まれ、探求する前にやめてしまうのだ。
彼らがそうなってしまったのは、「やりたいことは我慢して、みんなと同じことをしろ」がベースとなっている日本の教育と親の教育が間違っているからで、彼らは被害者といえる。
生まれてから約20年間かけてそうなっているため、心を大きく揺さぶられるようないい意味でのショックを与えない限り彼らは変われない。
そして私はテニスコーチとして、そのきっかけになることを常に意識してきた。だから今回も彼女と話をしたかった。そして、もしかしたら今回は彼女を変えるきっかけになれたかもしれない。
彼女は私と話す中でたくさんの涙を流しながら私に感謝を伝えてくれたのだ。涙ながらに「今までそんなことを言ってくれる人はいなかった」とも教えてくれた。
私が彼女に伝えたのは以下だ。
私たちは資本主義社会を生きているよね。
この資本主義社会というのはけっこうやっかいで、下手すると誰でも簡単に生活弱者になり下がってしまう。
資本主義社会を笑顔で生き抜くためには社会に貢献できる能力が必要なんだ。別の言い方をすると「自分の身近な人を笑顔にできる力」になるかな。
そしてそれができるのは、自分に自信があり、自分自身が幸せを感じられている人だけなんだ。
それだけではできないけど、それは必ず必要なことなんだよ。
榊原さん(仮名)はこれまで、他の部員のために活動をしてきたんだよね。それは一見、自分以外の誰かのために生きる素晴らしいことのように見えるけど、実は違う。
なぜなら、榊原さんの場合は、自分を犠牲にしているから。
繰り返しになるけど、本当の意味で自分以外の誰かのために生きることができるのは、自分に自信があり、自分自身が幸せを感じられている人だけなんだ。
だから、まずは自分を大切にしよう。
まずは自分のために生きてください。自分に正直に生きてください。
彼女は号泣した。
自分がやりたいことをやろう。そして迷わず、やりたいことに夢中になろう。夢中は、深い追求、探求だよね。自信は、深く追求したその先からしか生まれないから。
それから、人が探求できるのは好きなことだけだと私は思ってる。だから、やりたいことを始めたら、夢中になり、それをどんどん好きになろう。
それは実は何でもよかったりする。テニスでもいいし、テニス以外の何でも。重要なことは、何をやるかではなく、どこまでやるか、つまり深さなんだ。
何をやっても深く追求すれば多くのことを学べる。何からでも深く追求すれば人生を学べる。
難しく聞こえるかもしれないけど、要は、
「自分を大切に、自分のために、迷わず、やりたいことに夢中になり、それをもっと好きになる」
これだけだ。
そうすれば自ずと、自分の笑顔も、身近な人の笑顔も、増えていくよ。
もっともっと、輝いてしまいましょう。笑顔でいましょう。自らの気づきで、最高の人生にしてしまいましょう。
榊原さんなら変われます。
何年か経って、生まれ変わった榊原さんにまた会えるのを楽しみにしています!
その後、彼女はLINEでこう言っていた。
自分に自信があり、幸せを感じることが大切だなんて、最近まで全く理解できませんでした。
でも、今なら分かります!
ここからは、自分を大切に生活していきます。そしてそれぞれの事を深く取り組みます。
図々しいですが、また将来悩むことがあったら相談させてください。
それに私はこう返した。
悩んでいる時というのは、他人の影響を受け、自分を大切にできていない時かもしれませんね!
それでも、いつでも気軽に連絡してください。またきっと笑顔で会いましょう!!
これに対して、彼女は前向きな言葉を元気よく返してくれた。
確かに!そんな気がします!
いつか宮田コーチに明るい自分をお見せできるようになれればなと思います。努力します。本当にありがとうございました!
彼女が生まれ変わることを心から願っている。
資本主義社会は明らかに、明るい人の方が有利だ。いつも笑顔の人の方が有利だ。幸せを感じられる人の方が有利だ。自己肯定感の高い人の方が有利だ。
だから、他人の目など気にせず、他人の人生を歩むのではなく、自分のために、自分で決めた人生を堂々と歩んだ方が得する。
自己中と言われるくらいがちょうどいい。